嘘論文『小麦粉存在論』第5報(終)~パン屋さんに行ったよ~

―― みんなちがって、みんなおいしい ――

なまえ: むぎた ともき(市立第3小学校 2年3組 / 給食係)


1月25日(日ようび)
てんき:はれ

きょうは、お母さんといっしょに、駅前の「こむぎの森」というパン屋さんに行きました。

お店に入ると、すごくいいにおいがしました。

パンの棚には、いろんな形のパンがたくさん並んでいました。

なんだか、僕たちが来る前まで、パンたちが何かおしゃべりをしていたみたいにシーンとしていました。

みんな、僕に食べられるのを待っているみたいです。

1.お父さんのパン(なま食パン)

まず、お母さんが「お父さんはコレが好きだから」と言って、「なま食パン」をトレーに乗せました。

これは、焼かなくてもそのままでフワフワしているパンです。

お父さんは朝起きるのがおそいから、トースターで焼く時間がないので、これがちょうどいいんだと思います。

耳までやわらかくて、お布団みたいです。

2.僕のパン(カレーパンとコッペパン)

僕は、「カレーパン」を選びました。

外側がカリカリしていて、強そうでカッコイイからです。

トングでつかむと「ガリッ」と音がしました。

揚げてあるからジュワッとしていて、元気が出る味がします。

それから、「コッペパン」も買ってもらいました。

これは、真ん中に切れ目が入っています。
お家にあるイチゴジャムを自分ではさんで食べるためです。

カレーパンは辛いけど、そのあとに甘いジャムのコッペパンを食べると最高です。

コッペパンは、何にでもなれるからすごいです。

3.お母さんのパン(メロンパン)

お母さんは「メロンパン」を選びました。

お母さんは最近ダイエットをしていると言っていたけど、「メロンパンは別腹(べつばら)よ」と言って笑っていました。

網目のもようにお砂糖がキラキラしていて、見ているだけで幸せな気持ちになります。

お母さんがニコニコすると、僕もウレシイです。

4.みんなちがって、みんなおいしい

レジで並んでいるとき、トレーの上を見ました。

四角いパン。
丸いパン。
長いパン。
アミアミのパン。

形も色もぜんぜんちがうけど、みんな仲良く並んでいました。

四角いのはサンドイッチができるし、長いのはジャムがはさめるし、揚げてるのはガツンとくるし、甘いのは癒されます。

どれが一番えらいとかじゃなくて、僕はどのパンも個性的で大すきです。

早くお家に帰って、牛乳といっしょに食べたいなと思いました。

おわり。


【編集後記】
本誌『月刊 小麦粉研究』第138号「特集:パン種間における存在論的確執」を上梓するにあたり、多大なるご協力をいただいた各界の執筆者に深く感謝の意を表したい。

本号は、給食大学のコッペ・パン氏による「持たざる者」としての悲痛な叫びから始まり、乃が美大学のショク・パン・ド・ミ氏による富裕層の驕り、辛口カレー・パン氏による熱狂的な武力闘争論、そしてメロン・ド・パリ氏による甘美な宗教的救済論と、まさに現代パン社会の縮図とも言える混沌(カオス)を呈する結果となった。

編集部としては、これらの高度なイデオロギー対立に対し、何らかの学術的解決(ソリューション)が提示されることを期待していた。しかし、最終稿として届けられた、むぎた・ともき氏(市立第三小学校)の観察日記は、我々の期待を良い意味で裏切り、かつ、我々が積み上げてきた論理の塔を「食欲」という名の重機で粉砕した。

「みんなちがって、みんなおいしい」。

このあまりにも暴力的で、かつ真理を突いた一言の前に、我々大人の(あるいはパンたちの)理屈は無力である。小麦粉が水と出会い、酵母の働きで膨らみ、熱によって固まる。その奇跡的なプロセスを経て生まれた全てのパンは、最終的に「誰かの笑顔」になるために存在しているのだという原点を、改めて痛感させられた次第である。

なお、各氏から寄せられた原稿は、その主張の激しさゆえに、編集部のトースターやフライヤーを大いに過熱させたことを付記しておく。

読者諸賢におかれては、炭水化物の過剰摂取に留意されつつ、引き続き本誌をご愛読いただきたい。

(編集長 全粒 紛)


嘘論文シリーズ『小麦粉存在論』

発 行: 2026年3月2日(賞味期限:開封後はお早めに)
著 者: コッペ・パン / ショク・パン・ド・ミ / 辛口カレー・パン / 聖母メロン・ド・パリ / むぎた ともき
編 集: 『月刊 小麦粉研究』編集部 全粒 紛(ぜんりゅう ふん)
発行所: 株式会社 イースト書房
印 刷: 窯焼きプリンティング株式会社
定 価: 時価(小麦相場により変動します)

※本書はフィクションです。実在のパン、人物、団体とは一切関係ありません。
※本書を無断で複写(コピー)・転載することは、著作権法上での例外を除き禁じられています。


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