短編小説『私立・漢字学園』 第2話 ~サンカク野郎どもの仁義なき主張~

「私立・漢字学園」から遠く離れた、とある工業地区。

ここには、画数が多く、見た目の圧が強い漢字たちが集まる「第二漢字工業高校」がある。

その教室の隅で、異様な密度を放つ集団が円陣を組んでいた。

彼らは、同じパーツを3つ積み上げた形状を持つ「畳字(じょうじ)」と呼ばれる一派である。

ドンッ!

机を叩いて立ち上がったのは、リーダー格の「森(もり)」だ。

「いいかお前ら! よく聞け! 俺がこの中で一番『偉い』。これは決定事項だ!」

「森」は豊かな緑色のオーラ(というかマイナスイオン)を放ちながら、他の面々を見下した。

「理由? 簡単だ。俺だけが『小学一年生で習う』んだよ! お前らなんて、中学生や漢検準一級とかにならないと顔も出せねえマイナー野郎どもだろ! こちとら義務教育のスターターキットなんだよ!」

「森」は鼻息荒く、「木」を3つ揺らして誇示した。

「知名度、親しみやすさ、環境への貢献度。どれをとっても俺がキングだ。異論あるか?」

「……ハッ、笑わせるな」

冷ややかな声とともに、「森」の言葉を遮ったのは「品(ひん)」である。

彼は3つの「口」を歪めて嘲笑った。

「おいおい、『木』が集まっただけの湿気臭い男がイキるんじゃないよ。君は所詮、植物の集まりだ」

「品」はスーツの襟を正し、優雅に語り出した。

「僕を見ろ。『口』が3つだ。これはただの口じゃない。物品、品格、品位……そう、僕は『クオリティ』の象徴なのだよ。世の中の物は、僕がつかないとただのガラクタだ。君たちが森で木の実を拾っている間に、僕は経済を回しているんだよ!」

「品」の理路整然としたマウントに「森」が言い返そうとしたその時、強烈な光が教室を貫いた。

「眩(まぶ)しっ!!」

全員が目を覆う中、キラキラとした粒子を撒き散らして「晶(あきら)」が立ち上がる。

「暗い暗い暗ーい!! お前らジメジメしすぎ!」

「晶」は3つの「日」をフル稼働させて輝いた。

「『森』は鬱蒼として暗いし、『品』は世俗的で小賢しい! 僕を見て! 太陽が3つだよ!? 『日』が3つで星のように輝くんだよ!? この圧倒的なエネルギー! 破壊力! 僕こそが恒星! お前らごとき、僕のフレアで黒焦げだね!」

「あんだと、この電球野郎!」

「誰が小賢しいだ、この直視できない迷惑光源が!」

三つ巴の争いが始まったかと思われたその時、教室の窓ガラスがビリビリと振動した。

ドォォォォォォォン……!!

地響きと共に現れたのは、巨漢の「轟(とどろき)」である。

彼は背中に3台の「車」を背負っていた。

「うるせええええええ!! ごちゃごちゃ言ってんじゃねええええ!!」

その声だけで、黒板消しが落ちた。

「エコだの、品格だの、光だの……女々しいんだよ! 男なら『車』3つだろ!! エンジン3つ積んでんだぞ!? 馬力が違うんだよ馬力が!!」

「轟」は唾を飛ばしながら、「森」と「品」の胸ぐらを掴んだ。

「テメェらの理屈なんざ、俺のキャタピラで轢き潰してやる! 俺の名前を見てみろ! 『とどろき』だぞ!? 響きだけで強そうだろうが! オールマイトな某ヒーローの息子だって俺の字を使ってんだよ!」

「暴力反対! 暴力反対!」と「品」が叫び、「森」が「二酸化炭素を出すな!」と叫ぶ。

カオスと化した教室。

だが、そこに冷や水を浴びせるような、不気味な囁き声が響いた。

「……ねえ……みんな……」

全員の動きが止まった。

視線の先には、隅っこでじっとこちらを見ている「聶(じょう)」がいた。

彼は、3つの「耳」を持っていた。

「……ひひっ……聞こえてるよ……君たちの悪口……全部……」

「聶」はユラリと立ち上がる。その姿は異形だった。耳が3つあるのだ。どう考えても聴力が良すぎる。

「『森』くん……君、本当は花粉症の元凶って呼ばれて傷ついてるよね……? 『品』くん……口が3つあるせいで、食事代が3倍かかるって悩んでるよね……?」

「轟」くん……車検代……大変そうだね……」

「や、やめろ……! なんでそれを……!」

「轟」が後ずさりする。

「だって……僕、耳が3つあるから。君たちの内緒話も、心の声も、全部サラウンドで聞こえちゃうんだぁ……。一番偉いのは誰かな? 弱みを全部握ってる、僕じゃないかなぁ……?」

物理的な強さではない。精神的な「盗聴」という恐怖。

3つの耳がピクピクと動く様に、全員が背筋を凍らせた。

「森」の数の暴力も、「品」の社会的地位も、「晶」の輝きも、「轟」の馬力も、この不気味なストーカー気質の前では無力だった。

「……すいませんでした」

全員が声を揃えて謝った。

こうして第二漢字工業高校の覇権争いは、一番マイナーで、一番読み方が分からず、一番関わりたくない「聶(ささやく/耳を寄せて聞く)」の勝利で幕を閉じたのであった。

(完)

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