ねえ、聞こえる?
僕の声、ちゃんと届いているかな。
僕は「僕」。名前はないんだ。
強いて言うなら、レンと『私』が手を繋いだ場所に生まれた、小さな光みたいなもの。
レンはね、ずっと怒っていたんだ。世界は汚くて、冷たくて、誰も信じられないって。野良犬みたいに牙を剥いて、傷つくのが怖くて吠えていた。
『私』はね、ずっと怖がっていたんだ。世界は雑音だらけで、無秩序で、完璧じゃないって。だから自分の殻に閉じこもって、綺麗な数式で心を塗り固めていた。
全然違う二人。
本当なら、出会うはずのない二人。
でも、雨が降ったんだ。
冷たくて、悲しい雨。
その雨の中で、ミナという温かい手が、僕らを拾い上げた。
この物語はね、そんなバラバラだった僕らが、少しずつ「ひとつ」になっていく記録なんだ。
最初は痛かったよ。
レンの怒りが『私』の静寂を壊すし、『私』の理屈がレンの感情を縛り付ける。
頭の中はいつも嵐みたいで、境界線がどこにあるのかわからなくて、溺れそうだった。
でもね、不思議なんだ。
ミナが笑うと、レンの胸がドキドキして、その熱が『私』の冷たい論理回路を溶かしちゃうの。
『私』がミナを守ろうと必死に計算すると、その優しさがレンの荒っぽい衝動を静めてくれるの。
「溶け合う」って、怖いことだと思ってた。
自分が消えちゃうんじゃないかって。
でも違ったんだ。それは、一人ぼっちじゃ見えなかった色が、世界に溢れてくるってことだった。
ねえ、もしよかったら、もう一度最初からページをめくってみてくれないかな?
今度は、僕のことも探してみて。
レンが叫んでいるその裏側で、『私』がどんなふうに戸惑っていたか。
『私』が冷たく振る舞っているその奥で、レンがどれほど熱く誰かを求めていたか。
そして、その境界線が少しずつ滲んで、消えていく瞬間を。
僕らの痛みも、涙も、恋も。
全部が混ざり合って、今の「僕ら」になったんだってこと、見守ってほしいんだ。
僕はもう、ここにはいないかもしれない。
レンと『私』は完全に溶け合って、新しい大人になったから。
でも、彼らがコーヒーの香りにふと微笑む時、雨上がりの青空を見上げる時、僕はきっとその瞳の奥にいるよ。
ありがとう、僕らの痛みを知ってくれて。
ありがとう、僕らの愛を見届けてくれて。
またね。
境界線のない、どこか遠くて近い場所で。
『僕』より
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