秋の森は、赤や黄色の落ち葉で彩られ、しっとりと苔むした地面が広がっています。
そんな森の中を、小さな影が一つ、「そろり、そろり」と進んでいました。
彼の名前は、カモ吉。
まだ産毛が残るカモの赤ちゃんですが、その心は熱い「忍びの魂」で燃えています。
今日、カモ吉は初めての重要な任務を任されたのです。
身につけているのは、お母さんが夜なべして縫ってくれた、特製の青い忍び装束。頭巾もマスクもバッチリ決まっています。
そして、小さな背中には、自分の体と同じくらい大きな「ネギ」が一本、斜めに誇らしげに結わえ付けられていました。
「これはただのネギではないでござる。伝説の忍具、『ネギ丸』という名刀でござるよ!」
カモ吉は、お母さんから「お隣のタヌキさんに届けてね」と渡されたこの立派なネギを、すっかり伝説の武器だと思い込んでいるのです。
「敵に気づかれてはならぬ。忍び足でござる……ピョコ、ピョコ」
一生懸命に気配を消そうとしますが、平たい水かきは苔の上でどうしてもペタペタと音を立ててしまいます。それに、背中のネギが長すぎて、木の枝に「コツン」とぶつかることもしばしば。
道中、木の実を集めていたリスの兄弟に出会いました。
リスたちは、カモ吉の姿を見るなり、お腹を抱えて笑い出しました。
「ププッ!見てよ兄ちゃん、変な忍者がいる!しかも背中に美味しそうなネギ背負ってる!」
「ほんとだ!今夜は鍋なのかな?」
カモ吉はムッとして、マスクの下でくちばしを尖らせました。
「ええい、静まれ!これは鍋の具ではない!拙者は今、極秘任務の真っ最中でござる!」
そう言って、カモ吉は再び「ピョコ、ピョコ」と、真剣な顔で歩き出しました。リスたちは「可愛い忍者さんだねぇ」と、手を振って見送ってくれました。
ようやく、タヌキさんの家に到着しました。
カモ吉は玄関の前で、練習した通りの口上を述べました。
「タヌキ殿!拙者、カモの里より参上つかまつった。母上からの『秘伝の品』、しかとお届けに参ったでござる!」
出てきたタヌキさんは、カモ吉の姿を見るなり、ポンポコと自分のお腹を叩いて大笑いしました。
「わっはっは!こりゃあ驚いた!まさかことわざ通りの『鴨が葱を背負って来る』とは!しかもこんなに可愛い忍者姿で!」
タヌキさんはカモ吉の背中から「名刀ネギ丸」を優しく受け取ると、カモ吉の頭を撫でて言いました。
「ご苦労だったな、チビ忍者くん。この『秘伝の品』は、今夜最高に美味しい鍋になるぞ。お前も食べていくといい」
その夜、カモ吉はタヌキさんと一緒に、熱々のネギ鍋を囲みました。
「伝説の剣って、煮ると甘くてトロトロで、すっごく美味しいでござるなぁ……」
カモ吉はハフハフとネギを頬張りながら、立派な忍者への道は、美味しいご飯から始まるのかもしれないな、と思うのでした。
(おしまい)