【第3部:座標の解読】
【急募】作家・水上悟の新作『緑柱石の谷』の描写がヤバすぎる件 Part.4
ファンタジーにしては描写が具体的すぎて、読んでてGoogleアース開きたくなったわ。
これ、ガチのモデル地があるんじゃね?
俺も思った。
「北北西へ1.5キロ」「等高線が密になっている」とか、ファンタジーにしては測量的すぎる。
試しにいくつかのランドマークで検索かけてるんだが、とんでもない物が見つかったかもしれん。
作中に出てくる『エメラルドの毒沼』だけど、これ俺の地元の「旧・足尾銅山」周辺にある鉱毒沈殿池(通称・青池)にそっくりだわ。
・水がエメラルドグリーン
・周りの木が枯れて白くなってる
・立ち入り禁止区域
全部一致する。
マジか。その池を起点にして、作中の記述を逆算してみる。
「毒沼」の手前、西側に『巨人の槌音』が聞こえる場所があるはずだ。
しかも「正午」に「ドーン」と鳴るやつ。
そのエリアなら「××採石場」があるぞ。
あそこ、平日の昼12時ちょうどに発破(ダイナマイト爆破)やるから、地元じゃ時報代わりになってる。
「巨人の槌音」=「発破音」で確定じゃないか?
じゃあ、その手前にある『双頭の鷲』って何だよ? 岩山か?
見つけた。
山の中に「旧式高圧送電線の鉄塔」が2本並んでる場所がある。
航空写真で見ると、鉄塔のアームが広がってて、確かに「翼を広げた鷲」に見えるわ。
しかも「二羽(2本)」だ。
これだけ現実の場所と一致するなら、ただのファンタジー小説じゃなくて「実在の場所のスケッチ」なのか?
『双頭の鷲(鉄塔)』から南南東へ1.5キロ戻った地点。
物語のスタート地点である『石造りの塔』に該当する場所に、一軒の建物がある。
ここだ。
[リンク:Googleマップの座標]
うわ……なんだこの家。
山奥のポツンと一軒家だけど、窓に鉄格子ハマってないか?
ストリートビューの解像度が粗いけど、普通の別荘には見えねえぞ。
水上悟って2年前から失踪扱いになってたよな?
今回の雑誌のリード文で、担当編集の江崎って奴が「私が場所を用意して管理した」って自慢げに書いてたけど……。
これ、「執筆合宿」じゃなくて「監禁」なんじゃないのか?
水上先生は、江崎に監禁されて外に出られないんだ。
だから、検閲をごまかすために「ファンタジー小説」のフリをして、自分の居場所と脱出ルートを外部に伝えたんだよ。
物語の中では、主人公は「王都の灯り」を見て脱出に成功してるけど……。
現実の水上先生は、まだ『石造りの塔(あの家)』の中にいるってことだろ?
物語のラストは「過去の記録」じゃなくて、「こうやって助けてくれ」あるいは「逃げるから拾ってくれ」っていう未来への願望であり、俺たちへの指示書なんだ。
もう我慢できん。 このスレのURLと、特定した座標の情報まとめて警察に通報する。
誤報だったら笑ってくれ。
でも、もし本当なら一刻を争うぞ。
俺も近所の交番行ってくる。
あの「王都の灯り」って、峠から見える俺たちの街の夜景のことだよな。
水上先生がそんな思いであの景色を見てたと思うと、泣けてくるわ。
《 ……数時間後 》
【急募】作家・水上悟の新作『緑柱石の谷』の描写がヤバすぎる件 Part.7
「山間部の別荘から男性を保護。作家の水上悟さんと確認」
マジだったぞ!!!!!!
【第4部:校了】
○○新聞 朝刊社会面 202X年9月X日
作家・水上悟さん無事保護 監禁容疑で編集者の男を逮捕 「小説の舞台」が現実に——読者の通報が手がかり
××県警は昨日未明、同県山間部にある別荘に踏み込み、行方不明となっていたミステリ作家・水上悟さん(34)を保護した。水上さんは衰弱が見られるものの命に別状はない。 また、現場にいた自称編集者・江崎修容疑者(45)を監禁の疑いで現行犯逮捕した。
警察によると、水上さんは約2年前から、外部との連絡を一切遮断された状態で、江崎容疑者の管理する別荘に軟禁され、執筆を強要されていたという。 部屋の窓には鉄格子がはめられ、出入り口は施錠されていた。室内からは、書きかけの原稿と共に、水上さんが執筆の参考にしていたとされる「国土地理院発行 1/25,000地形図」が発見された。
今回の保護のきっかけとなったのは、今月発売された文芸誌に掲載された水上さんの新作短編だ。 作中の地形描写が、実際の監禁現場周辺の地理と酷似していることに読者が気づき、SNS上で位置情報が特定され、通報に繋がった。 フィクションの中に隠された「SOS」を読者が解読し、現実に救出へ至るという、異例の事態となった。
■ 捜査関係者による聴取メモ (対象:江崎 修 容疑者)
容疑者は逮捕時、抵抗する様子もなく、極めて冷静であったが、事態を正しく認識できていない言動が目立つ。 警察が踏み込んだ際、彼はデスクに向かい、次の原稿の赤字入れを行っていた。
■ 江崎容疑者の供述
「監禁? 人聞きが悪い。私は『編集』をしていただけです。 彼はスランプだった。だから私は、彼をノイズから隔離し、創作に没頭できる完璧な環境。すなわち『サンクチュアリ』を提供した。その成果があの傑作『緑柱石の谷』です。 理解できないのは、読者たちの反応です。 なぜ彼らは、物語の筋書きではなく、背景の『地図』ばかりを読んだのですか? あの小説は完璧なハッピーエンドだったはずだ。主人公は王都へ脱出し、自由を手に入れた。それで完結している。 なのになぜ、あなたたち現実の警察が、物語の余韻を台無しにするように土足で踏み込んでくる必要があるのですか?
……ああ、そうか。 私の校正は完璧だったが、読者たちが『誤読』をしたということか。 フィクションをノンフィクションと読み違えるなんて、なんと無粋な読者たちだろう」
■ 作家・水上悟氏 保護後初となる独占コメント (出版社公式サイトにて公開)
ご心配をおかけしました。水上悟です。
まずは、私のささやかな「地図」に気づき、私をあの塔から連れ出してくれた読者の皆様に、心からの感謝を伝えます。
担当編集の江崎氏は、確かに優秀な校正者でした。彼は私の原稿から、矛盾や甘えを徹底的に削ぎ落としました。しかし、彼は一つだけ、致命的なミスを犯しました。
彼は、物語の「行間にある感情」を読み落としたのです。
私が描いた『王都の灯り』を見て涙するシーン。彼はそれを「感動的なフィナーレ」と読みましたが、あれは私の「叫び」であり、まだ見ぬ「未来への渇望」でした。 彼の完璧な論理の隙間に、私は祈りを込めました。それを皆様が拾い上げてくれたおかげで、物語はフィクションの枠を超え、現実世界での結末を迎えることができました。
病室の窓から、街の明かりが見えます。 それは、あの日、想像し続けた『王都』の輝きそのものです。 これでようやく、本当の意味で——「校了」です。
202X年9月 水上 悟
(【第5・6部】へつづく)

